辨 |
ハハコグサ属 Pseudognaphalium(鼠麴草 shŭqūcăo 屬)には、世界に約90種がある。
タイワンハハコグサ P. adnatum (Gnaphalium adnatum, Gnaphalium formosanum;
寛葉鼠麴草・老鷄綿・地膏藥) 『中国本草図録』Ⅷ/3882
臺灣・華東・湖南・両広・西南・インドシナ・フィリピン・ヒマラヤ・インド産
ハハコグサ P. affine (Gnaphalium luteoalbum subsp.affine, P.luteoalbum
subsp.affine, G.affine;鼠麴草)『中国雑草原色図鑑』252
アキノハハコグサ P. hypoleucum(Gnaphalium hypoleucum;
秋鼠麴草・翻白鼠麴草・白頭風・火草・天水蟻草)
北海道・本州・四国・九州・朝鮮・臺灣・福建・江西・浙江・安徽・湖南・廣東・
インドシナ・フィリピン・ヒマラヤ・パキスタン・イラン産
『中国本草図録』Ⅵ/2888・『中国雑草原色図鑑』253
セイタカハハコグサ P. luteoalbum(Gnaphalium luteoalbum, Laphangium
luteoalbum, Helichrysum luteoalbum;絲棉草)
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キク科 Asteraceae(菊 jú 科)の植物については、キク科を見よ。 |
訓 |
和名は、一説に繁■{藩の三水に白を代入}蒿(ハンハンコウ)の転訛(奈良時代に伝来した『新修本草』に繁■蒿の記載がある)。
一説にほおけるの転訛(牧野)というが、ほうこぐさの名は江戸時代のもの。
いずれにせよ、母子草と書くのは正しくないというが、平安時代からこう書かれている(『文徳実録』879)。 |
春の七草の一、御形(御行・五行,おぎょう)は ハハコグサであるとする。
御形の名は、人形(ひとがた)の形代(かたしろ)に擬えたことから、といい、植物体が白いことから。ハハコの名も、「這子」との関連の可能性が 指摘されている。 |
深江輔仁『本草和名』(ca.918)馬先蒿に、「和名波々古久佐」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』12(1806)に、「ハゝコグサ母子草ト書 文徳実録に見えたり。古き和名ナリ。今ハホーコグサト云 オギヤウ御形ト書ス。後世誤唱テゴギヤウトス。古書ニハ皆オギヤウトイヘリ トウコ尾州 トウゴ同上 モチバナ豊後 モチブツ肥前 カウジブツ同上 モチヨモギ大和本草 ジヤウラウヨモギ同上 ゴギヤウブツ筑前 ゴギヨブツ九州 ゴギヤウヨモギ同上 トノサマヨモギ紀州 トノサマタバコ花ヲ云。同上 カハチゝコ信州 コウジバナ讃州 ツゞミグサ佐州 ネバリモチ野州 モチグサ防州」と。 |
漢名は、麴というのは その黄色い花の色から、鼠耳というのは その葉の形から、佛耳は鼠耳の転訛(本草綱目)。 |
英名 cudweed は、ハハコグサ属の総称。
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説 |
北海道・本州・四国・九州・琉球・朝鮮・臺灣・華東・兩湖・兩廣・西南・西北・華北・インドシナ・ヒマラヤ・インド・スリランカ・カフカスに分布。 |
誌 |
全草を薬用にする。 |
中国では、むかし 3月3日にハハコグサを加えた草餅を作って食った。
『荊楚歳時記』に、「是の日、鼠麹の汁と蜜とを取り、粉に和(ま)ぜて、之を龍舌◆{米偏に半}(ハン,ban,だんご・もち)と謂い、以て時気を厭(おさ)う」と。
『中国高等植物図鑑』によれば、今日でも「若葉は糯粑(タハ,nuoba,もち・もちがし)に作って食う」といい、『中国食物事典』によれば「春季嫩葉を細切し、糯米の粉に混ぜて団子にして食べる。西南各省で清明粑といって市販されている」という。 |
上記の習慣は、日本に伝えられた。『文徳実録』(879)に、嘉祥3(850)5月壬午の条に、三月三日に、母子草を採って蒸して搗いて餅にして食う習俗を記録している。(ほかに夫木和歌集・俊頼家集・曽丹集など)。
そののち、草餅に入れる草は、室町時代までにはヨモギに代った。 |
ハハコグサやヨモギを草餅に用いるのは、元来その葉裏の綿毛を餅の繋ぎとしたものであろう(牧野)。 |
鎌倉時代以降は、春の七草のうち 御形・御行(おぎょう・ごぎょう)に数えられた。
早春に若芽を摘んで 雑煮や七草粥に入れて食ったほか、丈の伸びたものも 茹で晒して 蔬菜として食った。 |
花を摘んで干したものをタバコの代用にし、薬効があるという。 |